在宅緩和ケアって何だろう?

在宅緩和ケアとは、簡単に言えば「在宅医療」と「緩和ケア」を見合わせたものです。ただ、こちらの記事で記載したように、本来であれば「緩和ケア」とは、がんと診断された時から行われる苦痛を取り除く治療ケアという幅広い概念なのですが、「在宅緩和ケア」の対象は、自宅で最期を迎えたいという、いわゆる末期がん患者さんを対象とすることが多いです。そのため「在宅ホスピス」とも言われます。

すなわち、余命数週間から数カ月と診断され、手術や抗がん剤治療が不可能となった時に、「残された時間を住み慣れた自宅で家族と共に過ごしたい」と患者さんが希望された時に行われます。

(※ちなみに、どのような状態が「がん末期」かという定義はありません。がんを治す治療が不可能で、余命が週単位である時に使用されることが多いと思います。筆者はこの言葉は好きではないので、あまり使いたくはないのですが、一般的にイメージがしやすいかと思い、今回は敢えて使用しています。)

 

在宅緩和ケアの実際

在宅緩和ケアが行われる場合には、医師が週1回、看護師が週3回のペースで訪問することが多いと思われます。なぜなら、がん末期の患者さんは病状が急に変化することが多いので、頻繁な診察が必要になるからです。このほか、訪問薬剤師や訪問リハビリなども利用することが多く、様々な職種で総力戦で患者さんが穏やかに自宅で過ごせるようにサポートします。

ちなみに、在宅でできる緩和ケアは、病院で行われるものと遜色はありません。必要があれば、モルヒネの点滴も自宅で行うことができますし、痛い時に痛み止めの追加も自分でできます。自宅で酸素を吸うこともできますし、吐き気どめや眠れない時の薬も使用することができます。逆に、自宅に帰った途端に痛みが和らぐこともあり、自宅に帰ること自体が痛みの治療になると考えられ、そういう点では病院よりも優れた緩和ケアができるということもできるかもしれません。

 

がん患者さんが亡くなるまでの経過

実際に人が亡くなるまでの経過を目の前で経験することは非常に少なく、また死の話が社会的にタブー視させていることもあり、その情報を得ることはあまりないと思います。しかし、ここでは敢えて経過を書きます。なぜなら、その経過を知らずして、在宅緩和ケアを決断・実践することは難しいからです。ちょっと怖いとは思いますが、知ってしまえば、あらかじめ心の準備ができ、より納得して在宅緩和ケアへ移行できるための手助けになると信じています。

ちなみに、がんの患者さんは、認知症や老衰、心不全などの慢性疾患とは異なり、亡くなる直前まで動けることも多く、前日までトイレに歩いていたということもあります。そのため、ご家族の濃厚な介護が必要となる期間は、限られていることが多いのが特徴です。

 

① 1〜2ヶ月前から体を動かすのが大変になる

この時期は、ちょっと接しただけではまだまだ元気に見える時期です。ただ、少しずつ動くのが大変になってくる時期で、動くと痛みが出たり、呼吸が苦しくなったりします(ただし、4人に1人程度は最後まで痛みが出ないと言われています)。トイレにも自分で行けるので、ご家族の負担はあまり大きくない時期です。

 

② 1〜2週間前からトイレに行くのが大変になる

この「トイレに行けるか行けないかの1〜2週間を乗り切れるかどうか」が、自宅で看取れるかどうかの分かれ道です。この時期は、患者さんもできればトイレに行きたい、けれども歩くのが非常に大変になる時期。毎回トイレの介助を必要とされるご家族の負担もかなり大きくなる時期です。この時期ばかりは、ある程度ご家族に頑張っていただくしかないのが実情です。し足、言い方は良くないかもしれませんが、この時期を乗り切ってトイレに行けない寝たきり状態になると、逆に介護は楽になります。

 

③ 数日前から食事が取りにくくなる

食べる量は徐々に減って行きますが、数日前からはほとんど食べられなくなります。実際にはゼリーやプリンなどを数口といった量になりますが、本人が食べられる量だけにしましょう。食べられなくなった患者さんを見ることは、ご家族にとっては大変つらいと思いますが、無理に食べさせるとむせて苦しくなることもありますので、自然の経過として受け入れていただければと思います。

 

④ 数時間前から呼吸が乱れてくる

徐々に意識が朦朧としてきて、寝たり起きたり、そして眠っている時間が長くなって行きます。最終的に、呼吸が浅く早くなったり、不規則になったりしてくると、そろそろ最期の時が近づいているしるしです。ご本人に反応はできませんが、耳元で話しかけてあげたり、手や足をさすってあげると、ご家族が近くにいることを感じて、安心されると思います。

 

⑤ 呼吸が静かに止まり、息をひきとる

やがて、静かに呼吸が止まり、しばらくすると心臓も止まります。病院では心電図が装着されており、亡くなると同時に医師や看護師が来て死亡確認やらエンゼルケア(死化粧)などを始め、ご家族は病室の外に出されてしまいますが、在宅では邪魔するスタッフはいません。亡くなった後も、ご家族で十分にお別れをしてから、在宅医や訪問看護師に電話してください。その後、自宅で医師による死亡確認が行われ、エンゼルケアは訪問看護師が担当してくれます。エンゼルケアはご家族が参加していただいても構いません。この時に着せる服装をあらかじめご本人と相談させている方もいらっしゃいます。家族が主体となって、患者さんをお見送りする準備ができることも、在宅の大きな魅力です。

 

上記の経過はあくまでも、一般的な経過です。がんの患者さんは急に容体が悪くなることがあり、気が付いた時には呼吸が止まっていたということもあります。しかし、ここで慌てて救急車を呼んでしまうと、どこかの病院に強制的に搬送されたり、心臓マッサージなどの蘇生処置を受けることになってしまいます。急なことが起こっても、落ち着いて、まずは訪問看護師や在宅医に電話をして指示を仰ぐことが重要です。

 

 

いかがでしたでしょうか?少しでも在宅緩和ケアのイメージが湧けば幸いです。

がん患者さんが在宅医療を選ぶメリットについては、こちらをご覧ください。

 

 

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加藤 寿

総合診療科祐ホームクリニック
職業:医師、専門:総合診療科、緩和ケア 自治医大を卒業し、埼玉県秩父地域で総合診療科として地域医療に従事。緩和ケアチームを立ち上げ、在宅医療の充実を図り、住み慣れた自宅で最期まで過ごせる地域作りに貢献してきた。医療の原点は地域にあると感じ、人を診る医師、地域を診る医師の育成を目指す。

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