在宅医療の費用について

<訪問診療で必要となる費用>

〜住んでいる場所や重症度によって幅があるが、一割負担の場合、月に3,000円から8,000円程度〜

訪問診療の費用に関しては保険診療ですので各種健康保険が適応となります。費用のベースとなるのは、在宅患者訪問診療料と在宅時医学総合管理料または施設入居時等医学総合管理料の2つです。これは具体的には、訪問して診療することにかかる料金と、24時間365日対応し健康を管理するためにかかる料金です。初診時には状態把握の目的もあり月に2回は定期訪問が必要となると考えると、お住まいの状況や収入によって金額は異なりますが、1割負担の方で3,000円から6,000円ほどとなります。また、訪問診療において多くの場合はケアマネジャーに情報提供し医療介護連携をはかることから居宅療養管理指導料が必要となり、これに月に約500円がかかります。

 

<その他追加でかかる料金は>

〜訪問診療では自宅の場合は5,000円から8,000円がかかる〜

急な病状変化で臨時の往診が必要となった場合には、往診料が加算されます。これは、往診の時間帯や平日か休日かなどによって料金が変わりますが、1割負担の方で一回につき800円から4,000円程度です。

また、特定疾患や在宅酸素療法を行っているなど厚生労働省が別に定める状態にある方の場合は重症と判断され、さらに約1,000円が追加でかかります。

訪問診療では基本的に院外処方となるためお薬の代金は別になり、これは薬局に支払います。

訪問診療にかかる交通費や通信費に関しては、医療機関ごとに設定されていて無料としているところから実費を請求するところまであるようです。

その他諸々の訪問診療にかかる費用を合計すると、自宅の方は5,000円から8,000円程度がかかります。

 

この訪問診療にかかる費用を聞いて、どう感じられたでしょうか。高いと感じた方も、安いと感じた方もいらっしゃるかもしれません。一般の外来診療と比較すると数倍の費用がかかりますが、これは24時間対応する体制を作るためにかかる費用とお考えください。

<ケースごとの費用>

ケース1 80代男性 アルツハイマー型認知症と糖尿病

自宅で高齢の妻と二人暮らし。子どもは遠方にいます。足腰が弱っていて通院困難ですが、病状は安定していて、月に一回の訪問診療で生活指導と血糖降下薬の処方が行われています。血糖降下薬はジェネリックで薬剤費はほとんどかかりません。

この方の場合、1割負担で1か月の費用は約4000円です。

ケース2 70代男性 脳卒中後遺症と高血圧
右半身マヒ。脳卒中の影響で飲み込みに問題があり、時折、誤嚥性肺炎を起こします。

普段は月に2回の定期訪問のみですが、肺炎を起こした月は臨時の往診が必要となるためこれにより医療費に幅があり、1割負担で1か月の費用 約7000円から10000円となります。

ケース3 60代女性 胃癌末期

胃癌、多発転移で抗がん剤の治療適応なく、自宅で最後を迎える事を希望し退院されました。退院後、医師が週に2日、看護師が週に4日訪問し全身管理と麻薬を使用した疼痛コントロールを行いました。退院後、2週間で亡くなりました。

この方は、3割負担で1か月の費用が、約110000円と高額になりました。

 

このように、ひとくちに在宅医療といってもケースごとに医療費は大きく異なります。

一方で、医療費には様々な助成や公費負担の制度があります。次項でこれをご紹介します。

<費用に関する様々な助成制度>

〜自立支援医療や指定難病の医療助成を使えると、医療費の自己負担を抑えることができる〜

公費医療負担制度とは、病気の種類や所得などに応じて国や自治体が自己負担を助成してくれる制度です。前項でご紹介したように、とくに自宅において訪問診療を受ける際、自己負担が重くなりがちです。しかし、この助成制度を利用することで自己負担を抑えて在宅医療を受けることができる場合があります。

自立支援医療は、身体障害者および精神障害者を対象としたものです。医療費は原則1割負担となり、世帯の所得に応じて月の負担額に上限が設定されます。また、指定難病の医療助成では、306種類の指定難病の方が対象となります。原則医療費の2割負担(すでに自己負担が1割の方は1割)で、さらに指定難病の受給者証に記載されている病名に関する医療および介護の多くの部分に助成を受けて自己負担をなくすことができます。その他にも、小児慢性特定疾病の医療助成や結核、原爆に関する助成もあります。

また、生活保護を受給されている方の場合、医療費や介護費は原則扶助で全額負担されるため自己負担はありません。

身体障害者手帳をお持ちの場合も、その等級に合わせて助成を受けることができます。医療費の助成に関しては、自治体によって助成の範囲が異なりますが、身体障害者手帳1級と2級および3級の一部の方は重度心身障害者医療費助成制度の対象となり、医療費の大部分の自己負担が免除されます。

 

<高額療養費制度>

〜年齢と収入に応じて自己負担限度額が定められている〜

上記のような助成制度に当てはまらない方でも、家計の負担を軽減できるように一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される高額療養費制度があります。また、70歳以上の方は、この限度額が外来のみの上限があります。このため、年収160万円以下の方は月の自己負担上限が8,000円、年収370万円以下の方は月の自己負担上限が1万2千円、現役並みの収入がある方は月の自己負担上限が4万4,400円になります。保険者から限度額適用認定証もしくは限度額適用・標準負担額減額認定証の交付を受け、医療機関の窓口で提示すれば、窓口での支払いを自己負担限度額内にとどめることが可能です。

 

訪問診療費などは非常に細かく分類されていて、詳細に知ることは難しいですが、介護保険費も各区分によって上限額が決められていますし、医療費と介護保険費の合算で上限も決められています。

 

 

 

<看取りにかかる費用>

〜在宅での看取りは病院での看取りよりもはるかに安い〜

自宅で看取りを行った際にも追加で費用がかかる場合があります。事前に看取りに関してきちんと説明を受け自宅で看取りを行った場合、医療機関の種類にもよりますが1割負担の方で3,000円から7,000円の費用がかかります。また、自宅で看取りを行う場合の多くは、看取る前には臨時往診など診察が頻回となりがちです。この臨時往診の費用もそれぞれかかり、さらにターミナルケアの加算がついて1割の負担の方の場合3,000円が追加でかかります。前述の訪問診療の基本費用と合わせると、月の医療費が10万円から18万円ほどとなり高額に感じられるかもしれませんが、病院における死亡1ヶ月前の平均医療費は112万円となっており(これは平成14年当時の額で、現在はさらに高額であると考えられます)、病院で亡くなるよりも家で亡くなる方が医療費は低く抑えられます。もちろん、前項でご説明した高額療養費制度も適応されるため、限度額以上の支払いを求められることはありません。

 

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内田 直樹

院長(精神科医)たろうクリニック
福岡大学病院精神神経科医局長、外来医長を経て2015年4月より現職。認知症の診断や対応、介護家族のケアなど在宅医療において精神科医が果たす役割が大きいことを実感。また、多くの看取りを経験する中で、人生の最終段階について事前に話し合う重要性を感じている。

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