自宅での看取りに関して

 

<高齢化の先に多死時代となる>

今後年間の死亡者数が増え続け、2030年には47万人の死に場所が確保できなくなると予想されている

現在、約8割の方は病院で亡くなっています。今後、高齢化率に比例して年間死亡者数も増加し、2030年には160万人が死亡する多死時代に突入すると考えられています。厚労省の推計によれば2030年には47万人の死に場所が確保できなくなると予測されています。

 

<「どこで最後の時を迎えたいか」のアンケート結果>

終末期に自宅で過ごし最後の時を迎えたいという人が6割から8割いる一方で、自宅で過ごしたいが実現は難しいと考える人も6割いる

どこで最後の時を迎えたいかに関して、いくつかの調査があります。1997年の厚生白書では、高齢者が死亡場所として望む場所で「自宅」と答えた方は89.1%にのぼります。2008年の「終末期医療に関する調査等検討会」報告書によれば、63.3%が終末期に自宅で療養することを希望しているものの、65.5%は、「介護してくれる家族に負担がかかる」「症状が急変した時の対応に不安がある」といった理由により実現困難であると回答しています。2012年度の日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の調査でも、癌で余命が1・2ヶ月に限られたら「自宅で過ごしたい」と答えた割合は8割に達しました。しかし、「自宅で過ごしたいが、実現は難しいと思う」と回答した人が63.1%います。

 

<在宅医療を活用することで最後の時を自宅で迎えることは可能>

在宅医療を活用することで終末期を自宅で過ごすことが可能となり、さらに希望すれば看取りまで家で行うことも可能となる

これらアンケートの結果からは、多くの人が「終末期を自宅で過ごしたい」「自宅で死にたい」と希望していながら、その希望を叶えるのは難しいと考えているようです。しかし、ここ数年で在宅医療を提供する医療機関は増加し、医療介護連携も以前よりスムーズとなってきました。今では、在宅医療を利用することで終末期に自宅で過ごすことが可能となっており、さらには自宅で死ぬことも以前よりずいぶんハードルが下がっています。

自分が病気となり余命が少なくなった時にどこで過ごし、最後の時をどこで迎えたいかについて、元気なうちから考え家族と話し合っておくことが重要だと考えます。家での看取りのハードルが高いと感じられる場合、できるだけ家でみて難しくなったら入院し病院で看取りを行うという選択肢もあります。

 

<どう死にたいかについて事前に話し合っておく>

自分で判断ができるうちに、どういった治療を行い、どういった治療を行いたくないかについて話し合っておくことが重要

どこで死にたいかだけでなく、どう死にたいかに関しても話し合っておくことが重要です。食事が食べられなくなった際には、胃瘻(いろう)という直接胃に栄養を入れる装置を作る場合があります。また、自力での呼吸が困難となった場合には人工呼吸器を使用することもあります。胃瘻や人工呼吸器は、いざ導入が必要となった際に本人の意思を確認することが困難な場合がほとんどです。

最近、リビングウィルという言葉も耳にするようになりました。これは、自分が病気や事故により治療による改善が望めない状態となり、いわゆる終末期の状態となった場合に、延命措置を希望するかどうかを表明することです。この延命措置に関しても、人工呼吸器の使用、心肺蘇生、胃瘻、高カロリー輸液、経管栄養、点滴と様々なものがあり、どの処置は望みどれは望まないかに関してなどを含めて文書で残しておくことで、その時に自分が判断困難な状態となっていても自分の意思を尊重してもらうことができます。最後まで積極的な治療を希望し入院治療を行うのか、侵襲的な治療は極力行わず終末期にはケア中心の対応を望むのか、終末期の治療の方針に関しても事前に話し合っておきましょう。

 

<看取りが近い時の点滴について考える>

看取りが近い時期の点滴は、看取りを先延ばしにすることはできるが苦痛は増すことが多い

加齢により徐々に栄養を吸収する力が落ちて体重が減少し、さらに食事量も減りさらに体力が落ちていくのが一般的な老衰の経過です。

これまでの医療では、食事が入らなくなれば点滴を行い水分を補給することを当たり前に行っていました。肺炎などの身体疾患により一時的に点滴で水分補給を行うことは、体力の回復を助け病状の回復を促すことは間違いありませんが、老衰の経過において点滴が必要かどうかは議論が分かれるところです。

点滴を行うことで延命に繋がることは多く、看取りを少しの間先延ばしにすることが可能です。しかし、終末期の点滴により体がむくみ、肺やお腹に水がたまり、痰も増えて身体の負担が増すこともしばしばみられます。一方で、食事が入らなくなった状態で点滴を行わないと、寝ている時間が長くなり身体も脱水傾向となりますが、本人には苦痛は少なく穏やかに最期を迎えることが可能だと考えられています。

在宅医療を積極的に行い自宅での看取りを多く経験されている先生ほど、終末期に点滴をできるかぎり行わないほうが良いと考えておられることが多いようです。一方で、終末期に食べられなくなった本人を目の前にして、何も医療処置を行わないという判断を家族がするのは、家族にとってとても辛い選択となります。こういった意味でも、やはり事前に話し合っておくことが重要だと考えます。

 

<急変時に救急車を呼ばないほうがいい場合もある>

最初にかかりつけ医に電話すれば、死亡診断書を書いてくれる

在宅医療を導入し自宅で最後の時を過ごせる環境が整った時に気をつけていただきたいのが、急変時の対応についてです。

在宅医療を提供している医療機関は基本的に24時間365日対応でき、いつでも看取りを行える体制をとっていますが、急変時に家族や介護者がこの在宅の主治医ではなく救急車を呼ぶケースがあります。しかし、救急隊が到着した際にすでに死亡しているのが明らかであった場合には、救急搬送をしてもらえず警察が呼ばれ検死を行うこととなります。こうなると、自宅で看取ることができなくなってしまいます。

在宅医療を導入された際は、急変時の対応に関してしっかり主治医の先生に相談し、家族や介護者内でも対応を統一しておきましょう。

 

<せん妄>

様々なストレスで、せん妄という混乱状態が出現することがあるが、多くは一過性である

せん妄とは、意識障害の一種で、急激に状態が悪化し一時的に認知症のような症状がでます。入院や感染症、薬物の影響など様々な原因で起こり、特に高齢者に起きやすいことが知られています。急にいつもと違う行動を取り出したり、つじつまが合わないことを言い出した場合、せん妄を疑う必要があります。一般的には回復可能ですが、終末期には原因が特定できず回復が困難なせん妄が出現することもあります。この場合、一時的に症状を抑制する薬物を使用することもあります。せん妄を疑った場合、まずは主治医に相談しましょう。

 

<終末期の自然経過>

看取りまでの経過にはいくつかのパターンがあり、脳、心臓、肺の機能がどのように落ちていくかで経過が異なる

終末期から看取りまでの自然経過は人それぞれですが、ある程度のパターンがあります。

老衰や認知症で亡くなる場合には、機能が低下した状態が長く続き徐々に全身状態が悪化し数年から数ヶ月をかけて看取りに向かいます。この場合、生命維持に必要な臓器である脳、心臓、肺の機能は全体的に少しずつ低下していくようです。

心臓や肺の機能が特に障害されている場合には心不全や呼吸不全が出現します。この場合は、急な状態悪化と回復を繰り返しながら徐々に全体の機能も低下し、最期の時は急に訪れることが多いです。

癌によって終末期を迎えた場合、比較的長い間痛み以外の症状はほとんどなく機能は保たれ、最期の数ヶ月で急激に機能が低下することが多いです。

このほかにも、脳に病変がある場合や肝臓に障害がある場合、出血をきたしている場合には突然の病態の変化によって急激に状態が悪化することがあります。

 

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内田 直樹

院長(精神科医)たろうクリニック
福岡大学病院精神神経科医局長、外来医長を経て2015年4月より現職。認知症の診断や対応、介護家族のケアなど在宅医療において精神科医が果たす役割が大きいことを実感。また、多くの看取りを経験する中で、人生の最終段階について事前に話し合う重要性を感じている。

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