ガン患者さんが在宅を選ぶ5つのメリット

ガンは在宅に適した疾患である

ガン末期で自宅に帰るなんて一番難しそうだけど、実はガンは在宅療養に適している

みなさんはガンと聞くと大変な病気で、痛く苦しくなり、自宅ではとても過ごせないと感じるのではないでしょうか?特に、家で最期を迎えるなんて無理に決まってる、家族としてもとても受け止めきれないとお考えかもしれません。しかし、実は、ガンが在宅医療、特に看取りまで行うには、とても適している病気なのです。にわかには信じられないと思いますが、以下に、その5つの理由を挙げてみます。

 

1、緩和医療は病院でも在宅でも、ほぼ同じ治療が受けられる

〜モルヒネの点滴も酸素も自宅で受けることができる!〜

ガンが進行してくると、痛みが出てくることが多く、末期では実に75%の方に何らかの身体的な痛みが生じると言われています。また他にも、呼吸が苦しくなったり、吐き気が出たりと様々な症状が出てきます。これらのつらい症状を抑えるのが「緩和医療」と言われますが、実は、ガン終末期の緩和医療は自宅でも病院とほぼ同等の治療を受けることができます。具体的に言えば、モルヒネの注射もできますし、急に強い痛みが出ても、自分で注射の追加もできます。また、呼吸が苦しければ自宅で酸素を吸うこともできますし、吐き気に対しても吐き気止めの座薬や点滴を使うことができます。これらの治療を組み合わせることによって、痛みなどのつらい症状を抑えながら自宅で生活することができるのです。

 

2、ガン患者さんは亡くなる直前まで動くことができる

〜ご家族の介護が大変な時期は限られている〜

ガン患者さんは亡くなる1〜2ヶ月くらいまでは、ほとんど以前と変わらない生活をすることができます。その後、急速に動けなくなってくるわけですが、(年齢にもよりますが)亡くなる数日前までトイレに行けることも多く、家族の介護が大変な時期は1〜2週間程度であることが多いです。さらに、寝たきりになれば、食事や水分も少なくなるため排泄の介護も少なくなり、家族の負担はぐっと減ります。つまり、ご家族が先の見えない長期間の介護で疲弊するということは多くありません。本人がトイレに行けるか行けないかの状態である1〜2週間の介護を乗り切れるかどうか、この短期決戦をどう乗り切るかどうかなのです。

 

3、経過が比較的予想しやすい

〜介護の終わりが見えやすい分、負担感は少ない〜

残念ながら、基本的にガンの患者さんは経過中に容体が良くなることはありません。また、前述のように亡くなる1〜2ヶ月前から急激に状態が落ちることが多く、その時期になれば比較的亡くなるまでの期間は予測しやすくなります。逆に、心不全や呼吸不全の場合には一時的に悪化しても良くなることが多く、老衰に関しても進行は個人差が大きいため、先の見えない介護でご家族は精神的身体的負担が大きくなることが多いのが実情です。ガンは残念ながら容体が良くならないという反面、それが見通しが立ちやすく短期決戦となることで、自宅での看取りを可能にするのです。

 

4、本人の意思がはっきりしている

〜本人が、はっきりと自分の意思を話せる状態であることが多い〜

在宅療養に最も重要なことは、本人の自宅にいたいという意思があるかどうかです。慢性疾患や高齢者の場合には自分の意思がはっきりと示せない状態であることが多く、ご家族もどのように介護したら良いのか迷うことが多いものです。しかし、ガンの場合は(脳転移やせん妄などがあるときを除いて)比較的最後まで意識がはっきりしており、自分の意思が話せます。そのため、入院したい、自宅にいたいなどの本人の意思を確認できるため、ご家族にとっても、療養の選択肢や介護の選択肢に関して考えやすいのではないかと思います。

 

5、ガンは自宅の方が寿命が延びる?

〜ガンの末期の患者さんは、病院で過ごすより自宅で過ごした方が長生き〜

それでも皆さんは、病院にいた方が手厚い治療や看護が受けられて、寿命が長くなると考えてはいませんか?実は、今年(2016年)4月の日本から発表された研究結果では、残りの寿命が数日間〜数週間と予想されたガン終末期患者さんたちの寿命を見ると、病院で過ごしていた人たちよりも、自宅で過ごしていた人たちの方が寿命が長かったのです。このことから、ガンの終末期では無機質で慣れない病院で過ごすよりも、住み慣れた自宅で家族と過ごしながら、穏やかに笑って過ごせることが、体のがんに対する免疫機能を高め、寿命の延長にも繋がると言えるのかもしれません。

いかがでしたでしょうか?もちろん、患者さんの年齢やガンの種類、進行の仕方によっては上記の内容は当てはまらないこともありますが、少なくとも、ガンだから在宅は無理ということはないとご理解いただけたでしょうか?

ガンの末期という非常に無念な状況であったとしても、住み慣れた自宅で家族と過ごせるという在宅医療が、少しでも患者さんやご家族の希望につながることを願っています。

 

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加藤 寿

総合診療科祐ホームクリニック
職業:医師、専門:総合診療科、緩和ケア 自治医大を卒業し、埼玉県秩父地域で総合診療科として地域医療に従事。緩和ケアチームを立ち上げ、在宅医療の充実を図り、住み慣れた自宅で最期まで過ごせる地域作りに貢献してきた。医療の原点は地域にあると感じ、人を診る医師、地域を診る医師の育成を目指す。

ガン患者さんが在宅を選ぶ5つのメリット” に対して8件のコメントがあります。

  1. 竹田 より:

    家族の介護が大変な時期は1〜2週間程度であることが多いですとは、とんでもない!!脳転移した家族は、
    急に立てなく歩けなくなり、3週間以上、トイレはベッドの上でテープ式紙おむつで過ごしました。脳転移ですから、頭がおかしくなっていて、紙おむつを勝手に脱ぎ、排泄を夜中に何度もしていたので、明け方気づいた時には、自らの大量の尿につかって、おかしいなとも気づいていませんでした。着ていたTシャツは首から背中まで
    茶色に染まり、一人介護で手もほどこせなくて、そのまま放置してしまいました。シャワーを浴びることも拒絶する家族、汚く臭いまま亡くなりました。訪問医療の先生が、そういうこともありますよと注意を促してくれれば対処もできたかもしれないのに、がん末期は病院で看取ってもらったほうが絶対家族にとって幸せでしょう!!

    1. 加藤 寿 より:

      それはとても大変な経過でしたね。
      記事の一部でも触れましたが、脳転移があると意識がもうろうとして通常の判断ができなくなります。
      そのため、ご本人だけでなく、ご家族の苦痛が大きくなりがちです。

      この度の介護でのご苦労を心よりお見舞い申し上げます。

      今回は貴重なご意見をありがとうございました。
      今後の記事作成の際に反映させていきたいと存じます。

  2. 小林記代子 より:

    2年前食道癌で全摘胃を1/3と周りのリンパ節も取りましたが心臓に転移心膜胸膜リンパ節、再発で抗がん剤投与昨日退院しましたが食べれず、痛みで辛そうです。頓用でオキノーム在宅の準備どこから始めレバいいのでしょうか?どうして良いのか不安です。

    1. 加藤 寿 より:

      大変な状況ですね。
      詳しい状況がわからないのですが、まずは退院された病院の「連携室」に相談されると良いかと思います。
      その地域の在宅医療の状況をよく知っている方が在籍しているはずです。

  3. こうま より:

    最近まで、一人暮らしの実母の主たる介護人をしていました。

    膵臓がんから、腹膜転移で、食欲がなくて、栄養失調と嘔吐で力尽きました。

    本人の希望は、出来るだけ長く自宅で過ごしたい、最後は入院で、とのことでした。
    亡くなるひと月前まで車で買い物をして、家事をして、インターネットとテレビで娯楽とショッピングを楽しんでました。

    転移が判って3年間あったので、一人暮らしを続け、最後の入院は4日間。亡くなる数時間前まで、ラインで連絡を取り合ってました。

    私は、亡くなるひと月前ぐらいから、緩和ケアの通院に毎週のように付き添い、痛み止めや吐き気止めの薬の相談に行きました。
    母とはラインと電話で連絡を取り合ってました。

    実際、転移した癌の場所や生活への影響は、その時にならないと分からないから、あらゆる可能性を考えていました。

    特にトイレが自力で行けないケースをとても心配していました。
    逆に考えれば、トイレに自力で行ければ、お風呂に自力で入れます。ほとんどの生活は何とかなるということです。

    もし、汚物まみれになったら、まず病院に、次に地域福祉センターに相談していたと思います。
    入院になるか、訪問ケアを受けるかは、その時の状況次第でしょう。

    最後に、介護休暇制度の3ヶ月間は、情報収集、通院の付添や関係機関との連絡調整のために、随時、半日、1−2日ずつとか、5日間とかで利用するものです。自宅介護の長期的なおむつ交換や介護食作りには、足りません。

    適切な時期(症状と検査結果の確定とか)に利用しやすいよう、事後手続きでもいいとか、制度と通知の改善をして欲しいものです。
    介護休暇制度の利用者が増えれば、介護情報がもっと身近になるはず。

    1. 加藤 寿 より:

      コメントありがとうございます。
      読ませていただいて、私にはお母様は亡くなる直前まで自らの生を全うされたように感じましたし、ご家族の支えが素晴らしかったのではないかと推察しました。
      膵癌でこのような経過は、なかなかないことだと思います。

      ご指摘のように介護休暇制度が十分に機能していないため、介護離職ということが起こってしまいます。
      どこに価値を置くか考え方次第ですが、何かを犠牲にしなければ成り立たない在宅医療というのは残念だなと感じます。
      出来るだけご家族が離職しないで介護にもある程度携われる環境づくりを考えては診療していますが、もう少し社会制度としての支えが欲しいですね。

  4. ピッコロさん より:

    68歳で食道がんの抗がん剤治療を続けていた父が、数日前から在宅医療となりました。

    1年前病気がわかった時は、食事が詰まり体重もだいぶ落ち、リンパに転移してだいぶ腫れていたのですが放射線と抗がん剤治療で、日常生活に支障がないほどに一度は回復しました。

    途中、腸閉塞・インフルエンザになり、3ヶ月ほど抗がん剤治療をお休みしていたら、また食道が閉塞してきて食事が食べれたり食べられなかったりしていました。

    そして、3ヶ月ぶりに抗がん剤治療をしたところ、貧血がひどくなり、食道からも出血していたようで吐血、下血が見られる様になりました。

    抗がん剤治療前まで車を運転して仕事をしていたのに、急に起き上がれなくなり、食べられなくなり、トイレにも行けなくなりました。

    入院して治療を続けていたのですが、なかなか回復せず、脳に転移性腫瘍も見つかり、片手片足が麻痺してしまいました。

    点滴と、脳の腫れを抑える薬を飲んでいますが、いつ意識がなくなるかはわからないし、家に帰れる最後のタイミングかもしれないとのことで、在宅医療を決めました。

    こんなに急に変化するとは思っておらず、もっと出来たことがあるのではないかと思ってしまいます。もう良くなる可能性はあまりないと言われましたが、本当にそうなのか悩んでしまいます。

    記事を読むと、亡くなる直前まで普通の生活をしてる方もいるとのこと。人それぞれ経過は違うのでしょうが、ガタガタっとダメになってしまうことがあるのでしょうか。

    1. 加藤 寿 より:

      大変な状況で、ご家族の心配、無念が伝わってきます。

      記事にも書きましたが、癌の場合には最終的な症状が出始めると、ご家族から見るととても進行が早いように見えることが多いです。
      ご本人・ご家族が自覚する症状と癌の進行度が一致しないこともあるからです。
      実際、症状が出始めてから病院を受診して、手の施しようがなく、1〜2週間で亡くなってしまう患者さんもおられます。

      抗がん剤治療は、最初の抗がん剤が効かなくなってくると、次からの治療の成功率はどんどん下がっていきます。
      あとは、何に価値を置いて治療方針を決めるかということになりますが、状態が悪い時の抗がん剤治療は生活の質を落とすだけでなく、逆に命を縮めることもあるので注意が必要です。

      このような状況の時、ご家族の多くの方は不安や後悔に苛まれますが、おそらくそれを完全に取り払うことは難しいとも思います。
      100点を目指すことは難しいですが、医療者と相談しながら、ご家族の後悔が少しでも少なくなるようお祈り申し上げます。

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