自分がどう生きたいかについて考えるーアドバンスケアプランニング(ACP)について

最近、自分が最後までどう生きるかをあらかじめ決めておいた方が良いとよく耳にすると思います。いわゆる「終活」といわれるものです。以前は、死んだ後の葬式のこと、お墓のこと、財産分与のことなどを決めることを指していましたが、最近は死ぬ直前の医療である終末期医療(終末期医療のことを厚生労働省は、「人生の最終段階の医療」という言葉を使っています)についてのことに関しても決めておくことも含まれてきています。しかし、実は終末期医療に関しては方針をあらかじめ決めておくだけでは不十分だとわかってきており、「アドバンス・ケア・プランニング」の重要性が叫ばれるようになってきています。つまり、エンディングノートを記載するだけでは十分ではないのです。今回は終活に絶対に必要な「アドバンス・ケア・プランニング」についてお話ししたいと思います。

 

リビングウィル

リビングウィルに関しては皆さんもお聞きになったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?リビングウィルとは、人生の最終段階において受ける医療の中身に関して、心肺蘇生、人工呼吸器、人工栄養など具体的な医療行為について希望するかどうかを記したものです。これがないと、これらの終末期医療に関しては、ご家族が決めることになります。

 

事前指示書

一方で、事前指示書は、リビングウィルも含めて、人生の最終段階の医療に関する様々な指示を行うものであると同時に、自分が判断できなくなった時に誰に判断を委ねたいかをあらかじめ指名しておくことも含まれます。このため、事前指示書の多くは2部構成になっていて、1枚目はリビングウィルに関して、2枚目は代理意思決定者の指名を記載します。

しかし、2010年の厚労省の調査では、事前指示に対する支持率は約70%と高い数値でしたが、実際に作成されていたのはわずか3.2%であることが明らかになっていて、まだまだ事前指示は日本において一般的ではありません。その一方で、病状の悪化を予測することが難しく予期せぬ事態になることが少なくないこと、現在の判断が未来においても変わらないとは限らないことなど、事前指示の限界も海外では指摘されていました。このため、最近注目されているのがアドバンス・ケア・プランニング(ACP)なのです。

 

アドバンスケアプランニング(ACP)

ACPにおいては、本人、代理意思決定者、医療者が集まって話し合いを行います。ACPにおいて話し合われる内容としては、代理意思決定者の指名、将来受けたい医療やケア、将来受けたくない医療やケア、希望する看取りの場所、患者本人の価値観や宗教観についてなどが含まれます。ACPは一度話し合って終わりではなく、状態が変化し重要な決定が必要となるたびに話し合いを行います。経過の中で患者さんご本人が判断能力を失った場合には、代理意思決定者と医療者で話し合いを行い、方針を決定します。ACPと事前指示書が異なる点は、事前指示書は「本人が書面を作って終わり」なのに対して、ACPでは、「ご家族や医療者も一緒に考え話し合うプロセス」を重視している点です。ここに医療者も入っていることが非常に重要です。一緒に話し合うことで、家族や医療者も本人の価値観や人生観を共有することができ、予期せぬ事態に陥った時や判断が難しい場合にでも、対応することが可能となるのです。

 

人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン

日本にはACPに関する法律はありませんが、厚生労働省が、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を作成しています。この中で、終末期医療に関しては患者本人の意思決定が基本であると明記されていますが、患者の意思の確認ができない場合の第一段階として、「家族が患者の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする」とされています。この「本人の推定意思」つまり「本人の意識がしっかりしているなら今の立場でどう考えていると思うか」が重要な一方で、実際の医療現場においては、「家族の意思」すなわち「家族がどうしたらいいと思うか」で方針を決定するよう要求されることが多く、この方針決定が家族の心理的負担となっていることがしばしば見受けられます。

 

実際の症例

脳梗塞のために入院した親がリハビリのため鼻からチューブを入れて経管栄養を行ったものの、リハビリでも状態の改善が望めず終末期と判断された方がいらっしゃいました。キーパーソンであるお子さんは、「あなたの判断でチューブを抜くかどうか決めてください」と入院中の主治医に言われ、明らかに本人が嫌がっている鼻のチューブからの栄養投与を継続するという決定にも抵抗がある一方、チューブを抜き栄養が入らなくなれば、じきに亡くなってしまうことは明らかで、チューブを抜くという決定にも抵抗があり、非常に判断に困っていらっしゃいました。この方は、退院後に施設に入りましたが、本人が鼻のチューブを抜こうとするため、手には常にミトンがはめられていました。

私が在宅医療の主治医となったため、初回の面接で「お子さんの意思で方針を決定するのではなく、親御さんが現状の理解と判断ができたとすれば、どう希望されるかを推定して方針を決定してください」とお話ししたところ、「とても気高い人でしたので、鼻にチューブを入れて栄養をとってまで生きたいとは言わないと確信します」と話され、チューブを抜き、看取りを行いました。

 

介護負担と心理的負担

前述のガイドラインにおいて、患者の意思が確認できず、推定もできない場合には、家族と医療者で患者にとって何が最善であるかを話し合って決定するよう示されており、家族に心理的負担がかかることとなります。

日本におけるアンケートでは、人生の最終段階の医療に関して、家族に介護負担がかからないことを優先させる思いが強いことが明らかとなっています。一方で、事前指示やACPの話し合いが行われていないために、人生の最終段階の医療に関する決定を介護家族に委ねることとなってしまい、家族に心理的負担を与えているのみならず、場合によっては本人が望まなかったであろう延命治療が行われることにもなってしまっているのです。

 

いつ、誰と話し合えばいい?

介護をする家族を気遣うのであれば、家族が困らないために自分の意思をはっきりと伝えて話し合いを行っておくことが重要であると考えます。しかし、このような話は、家族と話をするのは気恥ずかしく、主治医と話をするのも忙しそうで言い出しにくく、ズルズルと先延ばしになることがほとんどです。そこで、次のようなきっかけで話をすることをご提案します。

1、65歳になった時

2、慢性疾患(慢性心不全、膠原病など)や癌と診断された時

3、体が動かしづらくなってきた時

4、入院した時

ACPは繰り返し話すことが重要ですので、場合によっては毎年の自分の誕生日に話をすることも良いかもしれません。また、本人・家族・医療者が一堂に会して話し合う機会はなかなか持てないでしょうから、まずは主治医に自分の病状や終末期医療に関してわからないことなどを相談し、次にご家族と相談すると良いと思います。主治医に外来で相談するときには時間が取れないこともあるでしょうから、あらかじめ聞きたいことを書面にしておき、その次の外来で時間を取ってもらうなどの工夫も必要です。

 

人生、いつ何が起こるかわかりません。自分が最後までどう生きたいかについて思うところがあるのであれば、先延ばしにせずに、是非とも早めに相談されることをお勧めいたします。

 

 

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内田 直樹

内田 直樹

院長(精神科医)たろうクリニック
福岡大学病院精神神経科医局長、外来医長を経て2015年4月より現職。認知症の診断や対応、介護家族のケアなど在宅医療において精神科医が果たす役割が大きいことを実感。また、多くの看取りを経験する中で、人生の最終段階について事前に話し合う重要性を感じている。

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