老衰と延命治療について

老衰とは

老衰とは、加齢により心身の能力が衰えることで、その結果として死ぬ事を老衰死といいます。老衰は何歳以上であるとかいう決まりはありません。老衰以外に体が弱る原因・亡くなる原因がない場合には、たとえ70代であっても、80代であっても老衰という診断名がつくことがあります。つまり、老衰の診断は、実はきちんとした基準がなく、診療を行う医師の判断や考え方に委ねられているのです。

実勢、老衰死は戦後から減り続けていました。これは医療の発展に伴い、死に至るには何らかの病気があるだろうと考える傾向が医療界で強くなり、死亡診断書の原因欄に「老衰」と記載しなくなったことと、状態が悪ければどんな時でも何歳でも積極的に治療を行うことが一般社会の常識となったことが理由としてあげられます。つまり、終末期に「肺炎」、「心不全」、「腎不全」などが起これば、それに対して治療を最後まで目一杯行い、それでも残念ながら亡くなった場合に、その病名が死因として診断書に記載されるようになったのです。これでは、死亡診断書に老衰と書かれるわけがありません。

しかし、2000年に入り、徐々に老衰死と診断される例が増加しています。この原因として、もちろん超高齢者の死亡者数自体が増加している事もありますが、無理な延命治療をしなくなってきたという風潮も関係しているようです。終末期に「肺炎」や「心不全」や「腎不全」が起こったとしても、加齢によって起こった「老衰」の一部として考えて無理な治療を行わず、穏やかに亡くなる事を選択する事が増えていると考えられます。

 

老衰のメカニズム

老衰死の前に食事を食べる量が減り、体重が減少して徐々に衰え死に至る事は以前から知られていましたが、最近の研究で老衰死となる数年前で食事量が保たれている時期でも、徐々に体重が減少している事が明らかになりました。これには、老衰のメカニズムが関係していると考えられています。

老衰の際には、個々の細胞の寿命や、たんぱく質合成の減少、慢性的な炎症など、様々なメカニズムにより各臓器の細胞数が減少します。細胞数の減少により各臓器の機能が低下します。見た目にわかりやすいのは筋肉の減少で、少しずつ行動範囲が減少していきます。具体的な例として、握力と余命がよく相関する事も知られています。そして心臓や肺の機能も弱まり、余計に動ける範囲が狭まります。前述のように、食べているのに体重が徐々に減少するのは、胃腸の機能が低下し栄養を吸収する力が落ちて行くためだと考えられています。最終的には、脳の機能が低下する事で考える力は落ち、認知症も増加します。

 

実は、老衰は苦しくない!

しかし、悪い事ばかりではありません。脳の細胞が減少する事で痛みなども感じづらくなります。亡くなる前には食事を食べる事ができなくなり、水分を飲むのも難しくなるため体は徐々に脱水となりますが、これは弱った心臓や肺に余計な負担をかけないことにつながります。最近の研究で、老衰死の際には苦しみが少ない事が明らかとなっています。

 

老衰には何もしないのが一番苦しくない!

いわゆる終末期となり食事が食べられなくなった際に、胃に穴を開けて直接栄養を流し込む胃瘻を作成するのか、特殊な点滴でたくさんのカロリーを投与するのか、一般的な点滴で水分を補うのか、それとも何もしないか、いくつかの選択肢があります。終末期の過度な点滴は、弱った心臓に余計な負荷を与え、肺に水が溜まって呼吸が苦しくなったり、痰が増えて誤嚥性の肺炎を起こしたり、腸管に水が溜まって腸閉塞を起こしたりと、かえって負担を増やす事があります。また、海外の報告では、終末期の胃瘻(いろう)には生存期間延長の効果も、栄養状態改善の効果も、肺炎感染の予防効果もなかったとされていて、特に認知症の終末期においては胃瘻を含む管による人工的な栄養投与を行わない事を勧めています。また、日本老年医学会のガイドラインでは、本人のよい人生を支えうるQOLを達成でき、延命効果が期待できる場合には、胃瘻や点滴などの延命治療を行う価値があるが、QOLの向上が期待できない場合には延命効果があっても積極的には胃瘻や点滴を行わないようにすすめています。

 

終末期のことは、事前に家族と話し合っておくことが重要

厚生労働省は、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を平成19年に公開し、平成27年に改定しました。これによると、人生の最終段階における医療及びケアの方針の決定手続きとして、自分の意志で決める事ができる場合には、医師から専門的な知識について十分に説明を受けた上で自分の意志で決定する事を基本としており、合意内容を文書にまとめておく事を勧めています。一方、自分で判断する事が難しい状況では、家族が意志を想像して(推定意志を尊重して)最善の治療方針をとる事を基本としています。しかし、厚生労働省の研究班が2013年に、終末期のケアを主に誰が決定したのかについて調査したところ、家族が決定した場合が最も多く、自宅で過ごしていた場合でも本人が終末期のケアを決定したのは1割強だったという結果でした。

家族や主治医と事前に延命治療について話し合い作成する書類として、医療期間で独自の事前指示書を用意しているところもあります。

参考:国立長寿医療研究センターの事前指示書

http://www.ncgg.go.jp/zaitaku1/eol/ad/slider_jizensiji.html

家族や医師と決定するのではなく、第三者機関を利用して自分の意志を残しておく方法としては、日本尊厳死協会のリビングウィルを使用する事もできます。

終末期の延命治療について話し合う機会が持てた際には、終末期にどういった治療を選択するかだけではなく、どこで最後の時を迎えたいかについても考え話し合っておく事をお勧めします。現在、約8割の方は病院で亡くなっていますが、もし住み慣れた場所で最後の時を過ごしたいと思うのであれば、どこかのタイミングで在宅医療の導入が必要となります。

 

 

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内田 直樹

内田 直樹

院長(精神科医)たろうクリニック
福岡大学病院精神神経科医局長、外来医長を経て2015年4月より現職。認知症の診断や対応、介護家族のケアなど在宅医療において精神科医が果たす役割が大きいことを実感。また、多くの看取りを経験する中で、人生の最終段階について事前に話し合う重要性を感じている。

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