在宅医療とは

<在宅医療の定義>

(在宅医療では、定期的な訪問診療をベースに24時間365日の対応をし、緊急時には臨時の往診を行う)

在宅医療を理解するにはまず訪問診療について理解する必要があります。訪問診療とは、医師が自宅または施設に定期的(一般的に月に1回から2回)に訪問し、計画的に健康管理を行うものです。24時間365日の対応を行うことも訪問診療に含まれています。医師が自宅にうかがって診察をするというと往診という言葉を思い浮かべる方も多いと思いますが、往診は患者さんもしくはご家族の要請を受けてその都度診察に行くもので、一般に臨時往診と言われるように臨時のものです。この、訪問診療と臨時往診を組み合わせたものが在宅医療となります。狭義の在宅医療に加えて訪問看護や訪問歯科診療、訪問薬剤指導に訪問栄養指導など、在宅で行われる医療全般を含む在宅における医療の総称として在宅医療という言葉を使用する場合もあります。在宅医療を提供する医療機関を在宅療養支援診療所といいますが、この施設に関しての情報は別の記事で詳しく述べます。

 

<在宅医療の対象者>

(在宅医療の対象は通院が困難な方で、疾患や介護度による区分はない)

在宅医療の対象者は保険診療上の定義では、「在宅で療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者」となっています。また、除外基準として、「少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者」と通知されています。特定の疾患の方のみに行われるものではありませんし、寝たきりでいわゆる重症の方のみが対象となっているわけではありません。しかし、外来通院が可能な方は、たとえ在宅医療を望まれたとしても保険診療で在宅医療を行うことはできません。

 

<在宅医療対象者の具体例>

在宅医療対象者の具体例を挙げると、

糖尿病などの持病を抱えているが、高齢で筋力が低下し一人で移動できる範囲が制限されており、家族が病院に連れて行くのも難しい方

認知症に加え高血圧などの持病があるが本人には病識がなく病院に行くのに強い抵抗を示される方

それまでは自力で外来に通院していたが、腰椎圧迫骨折をきっかけに自力での通院が困難となった独り身の方

一人では通院できないもののこれまで夫が付き添ってなんとか通院していたが、その夫が亡くなり付き添える家族がいなくなった方

車椅子で通院していたが、病状の進行に伴い車椅子への移乗が困難となり外出が難しくなったか方

悪性腫瘍で積極的な治療の適応とならず、自宅で過ごすことを希望している方

老衰で最後の時を迎えるのに、自宅をその場所として希望される方

先天性の神経難病を抱え、自宅での生活は可能だが急変の可能性がある方

といった様々な場合が広く対象となっています。

 

<在宅医療は入院と外来に加わる第三の治療の選択肢>

(在宅医療で提供できる医療サービスの質と量は、入院治療と外来治療の間にある)

これまで、治療が必要にもかかわらずなんらかの理由で通院が困難な方は入院をするしか医療を受ける方法はありませんでした。また、入院し積極的な治療を行ったものの病気を根治することはできなかった時、最後の時を家で過ごしたいと思っても点滴やカテーテルの挿入などの医療的処置が常時必要な場合には外来治療では対応することができず家で過ごすことはできませんでした。在宅医療の普及によって、これらの方々が住み慣れた家で治療を継続し生活を続けることが可能になります。在宅医療で提供できる医療サービスの質と量は、入院治療と外来治療の間にあります。在宅医療で、血液検査や点滴、酸素投与や人工呼吸器の管理などは可能です。一方で、CTやMRIなどの画像検査は在宅医療が苦手としている分野です。在宅医療でどういったサービスが受けられるのかに関しては、別記事にて詳しく述べますので、そちらをご参照ください。費用に関しても、在宅医療は入院と外来の中間となります。

入院治療と比較した在宅医療の最大のメリットは、住み慣れた場所で過ごせることです。一方でデメリットとしては、介護者の負担が挙げられます。いくら本人が家での生活を望んだとしても、それを介護する家族がそれに同意し協力しなければ在宅医療は成り立ちません。この負担がどの程度のものか、不安に感じられるご家族も多いと思います。最近は様々な在宅医療・介護サービスが提供されておりこれを組み合わせることで、ずいぶんご家族の介護の負担を減らすことが可能となっています。どういったサポートが具体的に受けれるのかについては、別の記事でご紹介したいと思います。

 

<在宅医療の費用負担に関して>

(在宅医療の費用は住環境や疾患によっても異なるが、1割負担の方で月に3千円から8千円程度)

費用についても別記事で詳しく述べますが、1割負担の方は在宅医療によって月に3千円から8千円がかかります。これは、入院でかかる費用の数分の一です。費用に幅があるのは、お住まい(自宅か施設か)、訪問診療の頻度、重症度、同じ建物で何人がその医療機関から訪問診療を受けているか、などによって細かく費用が設定されているためです。自宅にお住まいで、指定難病や末期癌など重症の方であれば費用は高くなります。しかし、指定難病であれば医療費助成制度がありますし、一定の金額を超えた部分が払い戻される高額療養費制度もあり、月額の自己負担額には上限があります。

 

<24時間365日の対応について>

(基本的に、医療に関することであればどのようなことでも連絡してOK。いつでも対応してもらえるという安心感も在宅医療の重要な因子)

訪問診療は24時間365日の対応が基本となっています。このため、訪問診療の契約時にいつでもその医療機関に繋がる電話番号を教えてもらいます。急な発熱や転倒をはじめとして、体調に変わりがあった際には、いつでもこの連絡先に電話をして結構です。いつでも対応してもらえるという安心感も、訪問診療における大きなメリットです。基本的に、医療に関することであればどういったことでも連絡してもらって構いません。「こんなちょっとしたことで連絡してもらいいのだろうか」と思われるかもしれませんが、迷ったら連絡してみましょう。思いがけず重症の場合もありますし、重症でない場合でも医師や看護師が話を聞いてもらい安心することができればそれは意味があることです。連絡を取り相談をしながら、自分や家族の体調との付き合い方を学んでいってください。

 

<対象地域>

(在宅医療が行えるのは医療機関から16km圏内だが、あまり遠いと緊急時の対応に不安がある)

訪問診療を行えるのは、医療機関から16km以内の範囲と決まっています。このため、あまりに遠くの医療機関から訪問診療を受けることはできません。また、在宅医療では緊急で臨時往診が必要となることもあるため、往診を要請してから実際に来てもらうまでに1時間以上かかるような場所では、仮に16km以内に医療機関があるとしても、いざという時にすぐ来てもらえない可能性があり注意が必要です。

 

<在宅医療を受ける場所>

保険診療上、訪問診療を受けられる場所は自宅もしくは高齢者住宅などの普段生活している場所に限られます。このため、通所介護(デイサービス)事業所では訪問診療を受けることはできません。また、入院患者や医師の配置が義務付けられた施設(介護老人保健施設など)二入所中の方は訪問診療の対象となりません。

 

<いまなぜ在宅医療なのか>

(高齢化、病床不足、自宅で亡くなりたいという社会の希望、医療費の増大を背景に在宅医療は普及している)

在宅医療が普及している背景には、いくつかの要因があります。

まず一つ目の要因は人口構成の顕著な高齢化です。

日本における高齢者の割合は世界一で、また、今後もしばらくは高齢者が増え続けることが明らかです。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることは2025年問題とも呼ばれています。加齢に伴い通院困難な高齢者が増えたことが、在宅医療が求められている最大の理由です。これまでは、加齢により通院が困難になった場合は家族が付き添いなんとか病院まで連れていっていました。しかし、核家族化などの家族構成の変化に伴い同居している家族がいない場合(いわゆる独居老人)や、同居している家族も高齢の場合(いわゆる老老介護)が増えて、家族が付き添っての通院が困難となっています。また、これまでは家族だけが病院に行き薬をもらってくるということも慣例的に行われていましたが、これを長期間繰り返すことは保険診療としても違法となりますし、本人を診察しないことが長期間続くことで急変のリスクも上昇します。

二つ目の要因は、看取り場所に関するものです。

現在日本では約8割の方が病院で亡くなっており、自宅で亡くなる方は約1割です。

一方、超高齢社会の先には多死社会がおとずれます。現在、年間約120万人が亡くなっていますが、これは年々増加し2040年頃には年間死亡者数が160万人を超えると予想されています。仮に現在の病床数のままで現在同様約8割が病院で亡くなるとすると、2040年には49万人分の看取りの場所が不足するという試算もあります。

三つ目の要因は国民のニーズです。

終末期医療に関する調査では、終末期の療養場所に関する希望として60%以上の国民が「自宅で療養したい」と回答しています。また、1997年の厚生白書でも、高齢者が死に場所として望む場所で「自宅」と答えた方は89.1%にのぼっています。皆さん自身、自分が最後の時を迎える場所として可能であれば病院よりも自宅を希望するという方が多いのではないでしょうか。

四つめの要因は医療費に関するものです。

2007年度の1年間の死亡者について、死亡前1カ月にかかった医療費を年間の終末期医療費とした場合、1年間の死亡者数が98万人のうち医療機関での死亡者数が80万人で、死亡前一カ月の平均医療費が112万円でした。80万人かける112万円で、約9000億円が年間の終末期医療費と概算されています。また、年間の死亡者数は近年平均で年2万人程度の増加傾向で、さらに今後10年間は、年2万人を超えるペースで増加すると推計されています。看取りの場所が病院から自宅に移ることで、この終末期医療費が削減できるという見込みもあります。

これらの社会的要因や国民のニーズから、いま在宅医療が注目されており、今後ますます普及していくと考えられています。

 

<在宅療養支援診療所・病院の増加>

(在宅医療を提供する医療機関は多いが、看取りまで行えるところは限られている)

在宅療養支援診療所の届出数は、2006年の9434件から2010年の12487件と増加しています。また、在宅療養支援病院の届出数も、平成20年の7件から、平成22年の331件と増加しています。しかし、届出をしている在宅支援診療所および病院のうち在宅の担当患者数が1名以上の医療機関は、診療所で10661件、病院で266件となっており、届出を行っているものの在宅医療を行っていない医療機関もあります。また、在宅看取り数が 1名以上の医療機関は、診療所で5833件、病院で130件であり、自宅での看取りを行える医療機関となるとさらに少なくなっています。

 

<どこに相談したら良いのか>

(在宅医療を始めたいと思ったら、かかりつけ医かケアメネジャーにまずは相談を)

在宅医療を始めたいと思う、もしくは疑問があるけれどもどこに相談して良いのかわからないという方も多いと思います。この相談先としてまずお勧めするのは担当されているケアマネージャーさんです。在宅医療の導入を検討されている方であればすでに介護認定を受けられてケアマネージャーさんが付いていることと思いますので、そのケアマネージャーさんに在宅医療を受けたいと相談されてみてください。担当者を在宅医療に導入した経験があるケアマネージャーさんは多く、馴染みの医療機関を紹介してくれることでしょう。

担当しているケアマネージャーさんが在宅医療に詳しくないというケースも、なかにはあると思います。そういった場合は、地元の地域包括支援センターに相談してみましょう。地域包括支援センターというと、介護の相談をするところと思われがちですが、総合相談支援業務を行っており、その地元のどういった医療機関が在宅医療をおこなっているのかについても多くの情報を持っています。

その他の相談先として、市役所の介護保険担当窓口、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、保健所、地域医師会などが挙げられます。また、今かかりつけの先生に家に来てくれないかを相談してみるのも良いでしょう。最近徐々にではありますが、外来診療のみを行っていたクリニックが、訪問診療を行うようになっています。もしくは、かかりつけ医の先生が信頼する在宅医を紹介してくれることもあるでしょう。

 

<医療機関をインターネットで検索してみる>

インターネット検索で在宅医療についての情報を集めることもできます。「在宅医療 福岡」などと地域名から検索し、医療機関のホームページを当たってみるのが一つの方法です。また、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会のホームページ(http://www.zaitakuiryo.or.jp/index.html)から、この連絡会に参加している医療機関の会員リストを見ることができます。

 

<在宅医は都市部に多く地方には少ない>

訪問診療を行っている医療機関は都市部に多く地方に少ないのが現状です。都市部にお住まいの方は、選択肢の多さからどの医療機関を選んで良いのか迷われることでしょう。一方で、地方にお住まいの方は、その選択肢の少なさにお困りになるかもしれません。今後、在宅医療のさらなる普及に伴い、地方で在宅医療を提供する医療機関が増えることが望まれるところです。

 

<在宅医療を受ける前に準備するもの>

実際に在宅医療を受けることになった場合に事前に準備する必要があるものは健康保険被保険者証(保険証)で、お持ちであれば介護保険被保険者証(介護保険証)や介護保険負担割合証、障害者手帳、特定疾患医療受給者証も必要となります。内服している薬のリストも必要となるため、お持ちであればお薬手帳をご準備ください。また、かかりつけの医療機関から診療情報提供書(紹介状)をもらっておくと、主治医間の情報共有がスムーズになります。

 

<在宅医療での薬の受け取りに関して>

(薬を家に届けてくれる薬局も多い)

通院が困難な方が対象となる在宅医療においては、薬を受け取りに薬局に行くことも困難な場合がほとんどです。このため、自宅に薬を届けてくれる薬局が最近増えています。介護保険を使って薬局と居宅療養管理指導の契約を結ぶことで、自宅に薬剤を届けてくれて薬の説明や残薬の管理などを行ってくれます。費用は、1割負担の方で一回約500円程度です。

 

<症例>

Aさんは88歳の女性です。もともと農家で体力に自信がありましたが、3年前に腰椎圧迫骨折をしてから足腰も弱りました。一人で遠くまで歩くのは難しくなっており、要介護4の認定でした。徐々に体重が減少したため入院し、その原因を調べましたが明らかな異常はありませんでした。胃瘻を作ることも提案されましたが本人が拒否。この入院中に誤嚥性肺炎を起こしたこともあり、食事量も減ってきて完全に寝たきりの状態となりました。施設に入れることが検討されましたが、自宅に帰りたいとの本人の希望が強かったため、病院のソーシャルワーカーから在宅医療の提案がありました。急変の心配もあり家族は自宅にかえすことに不安がありましたが、24時間365日対応してもらえるということに家族も安心し在宅医療を導入することにしました。入院中には寝たきりで活気がありませんでしたが、家に戻ると少し元気を取り戻すことができて、車椅子で自宅の近くへお花見に行ったり、アイスクリームなどの好きなものを口にすることもできるようになりました。自宅でも一度誤嚥性肺炎になりましたが、臨時往診で点滴治療が開始され、訪問看護が毎日入ってくれることで発熱は3日で落ち着き1週間ほどで痰や咳も治りました。しかし、徐々に寝ている時間が長くなり、食事も全く入らない日が続くようになりました。本人の苦痛が少ないことを優先し点滴による栄養補給は行わないこととし、自然の経過で様子を見ることとしました。徐々に血圧が低下し、声かけにも反応しないようになり、深い呼吸が少しの時間続いたのちに家族の見守りのもと安らかに息を引き取りました。主治医の先生が死亡診断を行い、老衰との診断でした。

<在宅医療の定義>

(在宅医療では、定期的な訪問診療をベースに24時間365日の対応をし、緊急時には臨時の往診を行う)

在宅医療を理解するにはまず訪問診療について理解する必要があります。訪問診療とは、医師が自宅または施設に定期的(一般的に月に1回から2回)に訪問し、計画的に健康管理を行うものです。24時間365日の対応を行うことも訪問診療に含まれています。医師が自宅にうかがって診察をするというと往診という言葉を思い浮かべる方も多いと思いますが、往診は患者さんもしくはご家族の要請を受けてその都度診察に行くもので、一般に臨時往診と言われるように臨時のものです。この、訪問診療と臨時往診を組み合わせたものが在宅医療となります。狭義の在宅医療に加えて訪問看護や訪問歯科診療、訪問薬剤指導に訪問栄養指導など、在宅で行われる医療全般を含む在宅における医療の総称として在宅医療という言葉を使用する場合もあります。在宅医療を提供する医療機関を在宅療養支援診療所といいますが、この施設に関しての情報は別の記事で詳しく述べます。

 

<在宅医療の対象者>

(在宅医療の対象は通院が困難な方で、疾患や介護度による区分はない)

在宅医療の対象者は保険診療上の定義では、「在宅で療養を行っている患者であって、疾病、傷病のために通院による療養が困難な者」となっています。また、除外基準として、「少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者」と通知されています。特定の疾患の方のみに行われるものではありませんし、寝たきりでいわゆる重症の方のみが対象となっているわけではありません。しかし、外来通院が可能な方は、たとえ在宅医療を望まれたとしても保険診療で在宅医療を行うことはできません。

 

<在宅医療対象者の具体例>

在宅医療対象者の具体例を挙げると、

糖尿病などの持病を抱えているが、高齢で筋力が低下し一人で移動できる範囲が制限されており、家族が病院に連れて行くのも難しい方

認知症に加え高血圧などの持病があるが本人には病識がなく病院に行くのに強い抵抗を示される方

それまでは自力で外来に通院していたが、腰椎圧迫骨折をきっかけに自力での通院が困難となった独り身の方

一人では通院できないもののこれまで夫が付き添ってなんとか通院していたが、その夫が亡くなり付き添える家族がいなくなった方

車椅子で通院していたが、病状の進行に伴い車椅子への移乗が困難となり外出が難しくなったか方

悪性腫瘍で積極的な治療の適応とならず、自宅で過ごすことを希望している方

老衰で最後の時を迎えるのに、自宅をその場所として希望される方

先天性の神経難病を抱え、自宅での生活は可能だが急変の可能性がある方

といった様々な場合が広く対象となっています。

 

<在宅医療は入院と外来に加わる第三の治療の選択肢>

(在宅医療で提供できる医療サービスの質と量は、入院治療と外来治療の間にある)

これまで、治療が必要にもかかわらずなんらかの理由で通院が困難な方は入院をするしか医療を受ける方法はありませんでした。また、入院し積極的な治療を行ったものの病気を根治することはできなかった時、最後の時を家で過ごしたいと思っても点滴やカテーテルの挿入などの医療的処置が常時必要な場合には外来治療では対応することができず家で過ごすことはできませんでした。在宅医療の普及によって、これらの方々が住み慣れた家で治療を継続し生活を続けることが可能になります。在宅医療で提供できる医療サービスの質と量は、入院治療と外来治療の間にあります。在宅医療で、血液検査や点滴、酸素投与や人工呼吸器の管理などは可能です。一方で、CTやMRIなどの画像検査は在宅医療が苦手としている分野です。在宅医療でどういったサービスが受けられるのかに関しては、別記事にて詳しく述べますので、そちらをご参照ください。費用に関しても、在宅医療は入院と外来の中間となります。

入院治療と比較した在宅医療の最大のメリットは、住み慣れた場所で過ごせることです。一方でデメリットとしては、介護者の負担が挙げられます。いくら本人が家での生活を望んだとしても、それを介護する家族がそれに同意し協力しなければ在宅医療は成り立ちません。この負担がどの程度のものか、不安に感じられるご家族も多いと思います。最近は様々な在宅医療・介護サービスが提供されておりこれを組み合わせることで、ずいぶんご家族の介護の負担を減らすことが可能となっています。どういったサポートが具体的に受けれるのかについては、別の記事でご紹介したいと思います。

 

<在宅医療の費用負担に関して>

(在宅医療の費用は住環境や疾患によっても異なるが、1割負担の方で月に3千円から8千円程度)

費用についても別記事で詳しく述べますが、1割負担の方は在宅医療によって月に3千円から8千円がかかります。これは、入院でかかる費用の数分の一です。費用に幅があるのは、お住まい(自宅か施設か)、訪問診療の頻度、重症度、同じ建物で何人がその医療機関から訪問診療を受けているか、などによって細かく費用が設定されているためです。自宅にお住まいで、指定難病や末期癌など重症の方であれば費用は高くなります。しかし、指定難病であれば医療費助成制度がありますし、一定の金額を超えた部分が払い戻される高額療養費制度もあり、月額の自己負担額には上限があります。

 

<24時間365日の対応について>

(基本的に、医療に関することであればどのようなことでも連絡してOK。いつでも対応してもらえるという安心感も在宅医療の重要な因子)

訪問診療は24時間365日の対応が基本となっています。このため、訪問診療の契約時にいつでもその医療機関に繋がる電話番号を教えてもらいます。急な発熱や転倒をはじめとして、体調に変わりがあった際には、いつでもこの連絡先に電話をして結構です。いつでも対応してもらえるという安心感も、訪問診療における大きなメリットです。基本的に、医療に関することであればどういったことでも連絡してもらって構いません。「こんなちょっとしたことで連絡してもらいいのだろうか」と思われるかもしれませんが、迷ったら連絡してみましょう。思いがけず重症の場合もありますし、重症でない場合でも医師や看護師が話を聞いてもらい安心することができればそれは意味があることです。連絡を取り相談をしながら、自分や家族の体調との付き合い方を学んでいってください。

 

<対象地域>

(在宅医療が行えるのは医療機関から16km圏内だが、あまり遠いと緊急時の対応に不安がある)

訪問診療を行えるのは、医療機関から16km以内の範囲と決まっています。このため、あまりに遠くの医療機関から訪問診療を受けることはできません。また、在宅医療では緊急で臨時往診が必要となることもあるため、往診を要請してから実際に来てもらうまでに1時間以上かかるような場所では、仮に16km以内に医療機関があるとしても、いざという時にすぐ来てもらえない可能性があり注意が必要です。

 

<在宅医療を受ける場所>

保険診療上、訪問診療を受けられる場所は自宅もしくは高齢者住宅などの普段生活している場所に限られます。このため、通所介護(デイサービス)事業所では訪問診療を受けることはできません。また、入院患者や医師の配置が義務付けられた施設(介護老人保健施設など)二入所中の方は訪問診療の対象となりません。

 

<いまなぜ在宅医療なのか>

(高齢化、病床不足、自宅で亡くなりたいという社会の希望、医療費の増大を背景に在宅医療は普及している)

在宅医療が普及している背景には、いくつかの要因があります。

まず一つ目の要因は人口構成の顕著な高齢化です。

日本における高齢者の割合は世界一で、また、今後もしばらくは高齢者が増え続けることが明らかです。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることは2025年問題とも呼ばれています。加齢に伴い通院困難な高齢者が増えたことが、在宅医療が求められている最大の理由です。これまでは、加齢により通院が困難になった場合は家族が付き添いなんとか病院まで連れていっていました。しかし、核家族化などの家族構成の変化に伴い同居している家族がいない場合(いわゆる独居老人)や、同居している家族も高齢の場合(いわゆる老老介護)が増えて、家族が付き添っての通院が困難となっています。また、これまでは家族だけが病院に行き薬をもらってくるということも慣例的に行われていましたが、これを長期間繰り返すことは保険診療としても違法となりますし、本人を診察しないことが長期間続くことで急変のリスクも上昇します。

二つ目の要因は、看取り場所に関するものです。

現在日本では約8割の方が病院で亡くなっており、自宅で亡くなる方は約1割です。

一方、超高齢社会の先には多死社会がおとずれます。現在、年間約120万人が亡くなっていますが、これは年々増加し2040年頃には年間死亡者数が160万人を超えると予想されています。仮に現在の病床数のままで現在同様約8割が病院で亡くなるとすると、2040年には49万人分の看取りの場所が不足するという試算もあります。

三つ目の要因は国民のニーズです。

終末期医療に関する調査では、終末期の療養場所に関する希望として60%以上の国民が「自宅で療養したい」と回答しています。また、1997年の厚生白書でも、高齢者が死に場所として望む場所で「自宅」と答えた方は89.1%にのぼっています。皆さん自身、自分が最後の時を迎える場所として可能であれば病院よりも自宅を希望するという方が多いのではないでしょうか。

四つめの要因は医療費に関するものです。

2007年度の1年間の死亡者について、死亡前1カ月にかかった医療費を年間の終末期医療費とした場合、1年間の死亡者数が98万人のうち医療機関での死亡者数が80万人で、死亡前一カ月の平均医療費が112万円でした。80万人かける112万円で、約9000億円が年間の終末期医療費と概算されています。また、年間の死亡者数は近年平均で年2万人程度の増加傾向で、さらに今後10年間は、年2万人を超えるペースで増加すると推計されています。看取りの場所が病院から自宅に移ることで、この終末期医療費が削減できるという見込みもあります。

これらの社会的要因や国民のニーズから、いま在宅医療が注目されており、今後ますます普及していくと考えられています。

 

<在宅療養支援診療所・病院の増加>

(在宅医療を提供する医療機関は多いが、看取りまで行えるところは限られている)

在宅療養支援診療所の届出数は、2006年の9434件から2010年の12487件と増加しています。また、在宅療養支援病院の届出数も、平成20年の7件から、平成22年の331件と増加しています。しかし、届出をしている在宅支援診療所および病院のうち在宅の担当患者数が1名以上の医療機関は、診療所で10661件、病院で266件となっており、届出を行っているものの在宅医療を行っていない医療機関もあります。また、在宅看取り数が 1名以上の医療機関は、診療所で5833件、病院で130件であり、自宅での看取りを行える医療機関となるとさらに少なくなっています。

 

<どこに相談したら良いのか>

(在宅医療を始めたいと思ったら、かかりつけ医かケアメネジャーにまずは相談を)

在宅医療を始めたいと思う、もしくは疑問があるけれどもどこに相談して良いのかわからないという方も多いと思います。この相談先としてまずお勧めするのは担当されているケアマネージャーさんです。在宅医療の導入を検討されている方であればすでに介護認定を受けられてケアマネージャーさんが付いていることと思いますので、そのケアマネージャーさんに在宅医療を受けたいと相談されてみてください。担当者を在宅医療に導入した経験があるケアマネージャーさんは多く、馴染みの医療機関を紹介してくれることでしょう。

担当しているケアマネージャーさんが在宅医療に詳しくないというケースも、なかにはあると思います。そういった場合は、地元の地域包括支援センターに相談してみましょう。地域包括支援センターというと、介護の相談をするところと思われがちですが、総合相談支援業務を行っており、その地元のどういった医療機関が在宅医療をおこなっているのかについても多くの情報を持っています。

その他の相談先として、市役所の介護保険担当窓口、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、保健所、地域医師会などが挙げられます。また、今かかりつけの先生に家に来てくれないかを相談してみるのも良いでしょう。最近徐々にではありますが、外来診療のみを行っていたクリニックが、訪問診療を行うようになっています。もしくは、かかりつけ医の先生が信頼する在宅医を紹介してくれることもあるでしょう。

 

<医療機関をインターネットで検索してみる>

インターネット検索で在宅医療についての情報を集めることもできます。「在宅医療 福岡」などと地域名から検索し、医療機関のホームページを当たってみるのが一つの方法です。また、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会のホームページ(http://www.zaitakuiryo.or.jp/index.html)から、この連絡会に参加している医療機関の会員リストを見ることができます。

 

<在宅医は都市部に多く地方には少ない>

訪問診療を行っている医療機関は都市部に多く地方に少ないのが現状です。都市部にお住まいの方は、選択肢の多さからどの医療機関を選んで良いのか迷われることでしょう。一方で、地方にお住まいの方は、その選択肢の少なさにお困りになるかもしれません。今後、在宅医療のさらなる普及に伴い、地方で在宅医療を提供する医療機関が増えることが望まれるところです。

 

<在宅医療を受ける前に準備するもの>

実際に在宅医療を受けることになった場合に事前に準備する必要があるものは健康保険被保険者証(保険証)で、お持ちであれば介護保険被保険者証(介護保険証)や介護保険負担割合証、障害者手帳、特定疾患医療受給者証も必要となります。内服している薬のリストも必要となるため、お持ちであればお薬手帳をご準備ください。また、かかりつけの医療機関から診療情報提供書(紹介状)をもらっておくと、主治医間の情報共有がスムーズになります。

 

<在宅医療での薬の受け取りに関して>

(薬を家に届けてくれる薬局も多い)

通院が困難な方が対象となる在宅医療においては、薬を受け取りに薬局に行くことも困難な場合がほとんどです。このため、自宅に薬を届けてくれる薬局が最近増えています。介護保険を使って薬局と居宅療養管理指導の契約を結ぶことで、自宅に薬剤を届けてくれて薬の説明や残薬の管理などを行ってくれます。費用は、1割負担の方で一回約500円程度です。

 

<症例>

Aさんは88歳の女性です。もともと農家で体力に自信がありましたが、3年前に腰椎圧迫骨折をしてから足腰も弱りました。一人で遠くまで歩くのは難しくなっており、要介護4の認定でした。徐々に体重が減少したため入院し、その原因を調べましたが明らかな異常はありませんでした。胃瘻を作ることも提案されましたが本人が拒否。この入院中に誤嚥性肺炎を起こしたこともあり、食事量も減ってきて完全に寝たきりの状態となりました。施設に入れることが検討されましたが、自宅に帰りたいとの本人の希望が強かったため、病院のソーシャルワーカーから在宅医療の提案がありました。急変の心配もあり家族は自宅にかえすことに不安がありましたが、24時間365日対応してもらえるということに家族も安心し在宅医療を導入することにしました。入院中には寝たきりで活気がありませんでしたが、家に戻ると少し元気を取り戻すことができて、車椅子で自宅の近くへお花見に行ったり、アイスクリームなどの好きなものを口にすることもできるようになりました。自宅でも一度誤嚥性肺炎になりましたが、臨時往診で点滴治療が開始され、訪問看護が毎日入ってくれることで発熱は3日で落ち着き1週間ほどで痰や咳も治りました。しかし、徐々に寝ている時間が長くなり、食事も全く入らない日が続くようになりました。本人の苦痛が少ないことを優先し点滴による栄養補給は行わないこととし、自然の経過で様子を見ることとしました。徐々に血圧が低下し、声かけにも反応しないようになり、深い呼吸が少しの時間続いたのちに家族の見守りのもと安らかに息を引き取りました。主治医の先生が死亡診断を行い、老衰との診断でした。

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内田 直樹

院長(精神科医)たろうクリニック
福岡大学病院精神神経科医局長、外来医長を経て2015年4月より現職。認知症の診断や対応、介護家族のケアなど在宅医療において精神科医が果たす役割が大きいことを実感。また、多くの看取りを経験する中で、人生の最終段階について事前に話し合う重要性を感じている。

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